PrinceOfTennis
手紙-1
SNSでのやりとりが全盛期のこのご時世、ラブレターなどめったにお目にかかれる物ではない。ましてそれが下駄箱の靴の上に乗せられているときては。
(ベタを通り越して古典の領域に入ってんじゃねぇのか)
それが、その手紙を目にした時の跡部の正直な感想だった。
『あなたが、好きです』
取り出した便箋にはなんのひねりもないひと言がしたためられていた。しかし、直前までは鼻で笑ってやろうと思っていた跡部がそれに見入ってしまったのは、日頃自己主張の強い女たちにつきまとわれているせいで、署名すらないそれが逆に新鮮に思えたからだろうか。
『跡部 景吾様』
封筒を裏返し、先ほどは碌に確認することもなかった宛名をじっくりと見てみる。流れるような美しい字体というわけにはいかないが、一つ一つ丁寧に書かれているのがはっきりと見て取れるその筆跡にはどこか見覚えがあるような気がした。これと寸分違わぬ筆跡で、彼の名前を書いた誰かを跡部は知っているはずだった。それもごく最近のことのはずなのに。
「クソッ……」
記憶力は良くとも興味のないものに関する記憶はすぐに失ってしまう彼は、もどかしさに歯噛みする。
(絶対に、思い出してやる)
思い出して、捜し出して、見つけて。そしたら。
「おまえのことで頭がいっぱいだって、言ってやる」
確か「手紙」をお題に500字以内で、というバトンが回ってきて書いたものだったかと。
ブログに掲載したものなのでヒロインの名前は出てきません。
蛇足かと思いながらも書いたヒロイン視点のお話はnextからどうぞ。
2014.10.04
2007.10.03初出